肺結核(結核)は,日本では弥生時代からあったといわれる. 大きな流行になるのは,都市化が進んだ江戸時代から明治時代になってからとなる. 古くは労咳(ろうがい)や労瘵(ろうさい),肺労,労症などとよばれた. この病が「疲れ,衰弱,消耗する」ことなどからこのように言われた.
日雇労働者が集まる大阪あいりん地区の結核感染者が異常に多いことがわかっている(右).
1900年_1996年_日本の結核死亡率の推移_1122000年_2014年_主要都市県の全結核罹患率の推移_172
古い治療方法は,「養生」といい風通しの良い場所で安静にして十分な栄養を取るということしかなく,自分の免疫力結核菌を抑え込み,自然に治ることを待つしかなかった. 結核が重症化すると,ただただ死を待つしかなく,決して治らない病気「不治の病」と言われた.
1990年_2014年_結核患者致命率の推移_16220160701_2004年男女別結核による死亡数推移_154
明治維新後,大規模な養蚕業(製糸業)が盛んになり,生糸や絹織物が米国などに輸出されるようになると,女工を中心とする工場労働者間で結核が流行するようになる. 都市部で結核に感染した女工労働者が郷里に帰り,農村部でも結核を広げることになる.
2013年_世界の結核状況_WHO_1442014年_先進国の日本の結核罹患率_152
1950年ごろは,20歳で半分以上が結核菌に感染(自然陽転)していた. 「感染」した人の90%以上は症状なく一生を過ごすが,5%-10% の人が結核を「発症」する. 「感染」と「発病」は全く意味が違う. 結核は,1935年ごろから終戦まで病死第1位(全死亡の12%程度)で亡国病(国民病)とも言われた.
2015年_結核の新発生患者の分布比_18420160701_2003年国別結核患者数推移_174
ドイツヴォルシタイン地方の保険技師だったハインリヒ・ヘルマン・ロベルト・コッホが,1882年に「結核菌を発見した」と世界に報道された. ヒト型結核も細菌が病原体であることを証明した. これがきかけとなってベルリン大学衛生学教授となり,日本からも北里柴三郎(のちに私立伝染病研究所を設立)が国費でドイツに派遣(1886年)され,ロベルト・コッホとともに6年間細菌学(伝染病)の研究をおこなう.
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そしてロベルト・コッホは,1890年にツベルクリンを発表する. 世界は「魔法の薬」として歓喜したが,期待の予防血清(ワクチン)としての機能はなかった. ツベルクリンは,結核菌を培養した液体を殺菌したもので,結核菌に関係するタンパク質の集合体だった. ツベルクリンは,現在も結核感染診断として活用されている.
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結核ワクチン(BCGワクチン)は,1921年にフランスのルイ・パスツール研究所のカルメットとゲランによって開発されることになる. もともと毒性の弱いウシ型結核菌を13年間に何世代も培養しながら弱毒化することに成功した. ワクチンによって事前に自己免疫を活性化させて結核予防をおこなう方式となる.
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結核予防のための弱毒生菌ワクチンとして世界中で利用されるようになる. 日本では,1924年にパスツール研究所からこのが提供され,1938年から正式にBCG接種が認められた. 1950年からは,液体ワクチンから長期保存可能(現在の保存期間は2年)な乾燥ワクチンになっている.
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以前の方法では,まずはツベルクリン反応検査注射(ツ反)を行い,陰性のヒトのみBCG接種を幼児期,小学,中学の3回おこなっていた. 予防接種法(定期予防接種)に基づいて公費助成となる. その後,世界保健機関(WHO)から「BCGを2回以上接種することは無意味である」との勧告などを受け,2005年からツベルクリン反応検査なしで生後6カ月未満(生後5カ月から8カ月の間)の幼児に1回のみ接種することとなった.
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さらに2014年から生後1年未満に変更(骨炎の副作用を否定できなかったため)されている. これにより,幼児髄膜炎などが減っている. 1回の接種で,結核感染予防として 50年-60年間(10年-15年説もある)の有効性が持続するといわれる.
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1944年,ドイツ系米国セルマン・ワクスマンがカビの放線菌から作り出したストレプトマイシン結核に劇的な効果があり,まさに「魔法の薬」となった. 戦後の混乱の続く1950年までは,年間10万人が結核で死亡していた. 近年でも結核は今でもなお最大級の感染症で,2012年には全国で2万1283人の結核患者が新たに発生し,2110人が結核で亡くなっている. 2015年には全国で1万8280人の結核患者が新たに発生し,死亡数1955人が結核で亡くなっている. 現在でも日本最大の感染症のひとつとなっている.
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結核ワクチン(BCGワクチン)は,乳幼児には絶大な効果は認められるものの,大人ではほとんど効果がないのではないかといった報告が出ている. それを証明するような事件が船橋で発生した...
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2016年7月5日,30代の男性がセキなどの症状を訴えて病院で診察を受けたところ,結核と診断された. 船橋市内のS学習塾に努める講師だった.
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保健所が,学習塾の生徒などを調査したところ,同僚の講師や生徒など56人が結核に集団感染し,うち15人が発病していた. 船橋市内の結核感染事件としては,2015年11月にも60代の男性が結核と診断され,市内の遊技場の従業員や利用客ら8人が結核に感染(本人含む)し,うち6人が発病する事件が発生していた. 今回は,それを超える大規模感染だった.
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S学習塾結核集団感染感染で結核菌を排出したのは男性講師のみで,その男性講師の飛沫によって小学生8人,中学生13人,高校生以上22人の学生43人のほか,学習塾同僚6人,別居家族の2人が感染していた. 学習塾はどこも教室が狭いので,空気感染が起きやすいが,感染者がN95クラスのマスクをすることによってかなり防御できる. 食器や衣類などを介して結核感染することはない.
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結核菌の排出元となったS学習塾男性講師は,5年前(2012年)の健康診断(健診)時に,肺の異常が指摘されていた. ことから,すでにこのころには感染していて長い間保菌者であった可能性がある. だが,医療機関を受診していなかったことから結核ツベルクリン反応検査などはおこなっていなかった. もともと慢性的な咳があったが,2016年4月ごろから咳やタンが増え,体重減少や手の震えも出ていた. 2016年6月に近くの医療機関を受診して肺炎と診断され,抗生剤を内服するものの症状は改善しなかった.
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ネットでは,「受験勉強で大事な時期にかわいそう」. 「船橋では広すぎる」. 「船橋の学習塾ってどこ?」.「船橋の具体的な場所が報道されないのはおかしい」.「調べても一向にわからない」.「ちゃんと発表してもらわんと困るなあ」. 「市民への影響を最小限にするためにも積極的に公表するべき」. 「先進国で結核がこれだけ蔓延してる国は日本くらい」といった声が出ている.
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では,乳幼児時期に結核検査BCG接種をしているにもかかわらず,なぜ15人も発病してしまったのだろうか. ひとつには,乳幼児期のBCG接種が正確に行われなかったことが考えられる. 正確にとは,乾燥ワクチンになったことから,BCG液が正しく作らず濃度にムラがあった. BCG液に直射日光にあててしまった. 接種場所の消毒用のアルコールを乾かないうちにBCG接種をしてしまった. BCG管針(通称スタンプ注射)の押し方が弱すぎた. BCGスタンプを2回押すべきところを1回しか押さなかった. BCG接種後乾かないうちに衣服を着てしまった. ---などの理由が考えられる.
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BCGワクチンが効かないのではないか」もしくは「効き目が悪い」といった疑問の声が出ている. そもそも,BCG接種後の持続期間にはかなり個人差があり,10年以上も効果が続く場合もあれば,2年-3年で陰性になってしまうこともある.
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