JR東日本は,毎日1万2773本以上の列車(電車)を運行し,1日の利用者数は約1710万人にもなる. 東京圏の朝の通勤ラッシュアワーの時間帯のJR中央快速線,山手線などでは,1時間に30本以上走る(約2分間隔)超過密運転をおこなっている. にもかかわらず,列車が遅れることは少ない. 秒単位の運行時刻表や運転手の時間に対する厳格さなどが,この過密運行を支えている.
JR京葉線のデルタ線内の二俣新町駅.
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日本に住む外国人も,日本ならではの高いサービスに驚く人も多い. また,乗客側も「順序よく並び降りてから乗車する」というあたり前のルールが確立されていることも,電車が遅れない理由のひとつといえるだろう. 一方で激混みの通勤電車に乗った外国人からは,「発狂したい(日本では通勤地獄という)」,「(日本人は不満も言わず)まるでロボットようだ」といった感想もある.
東京圏の朝の通勤ラッシュアワーの押し屋.
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これらの列車の運行を支えているのは人だけではない. 世界最高レベルの鉄道システム群が裏方で支えている. 自動列車制御装置≪ATC≫や,自動列車停止装置≪ATS≫,列車集中制御≪CTC≫,自動進路制御装置≪PRC≫などとなる. 列車には,クルマでいうアクセルとブレーキしか無く,進路を変えるためのハンドルがない. 進路を転換する部分を分岐器(ターンアウトスイッチ)という.
JR京葉線の京葉車両センター.
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かつての鉄道の分岐器(ポイント)や信号機は,人間の手によって動かしていた. ポイントや信号機を間違いなく動かさないと列車は正しい進路に進めない. 1989年(平成元年)常磐線磯原駅(茨城県北茨城市)では,人的ミス(勘違い)で夜間保線工事でレールが取り外された区間に下りJR貨物列車を進入させてしまい,脱線転覆するという事故が発生している.
JR京葉線の南船橋駅.
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これらのポイント切り替えや信号を一箇所から遠隔操作するために作られたのが「列車集中制御≪CTC≫」となる. CTCによって効率的な運行管理が可能になったものの,ポイントの切り替えを集中化(センター化)しただけであり,まだ人間の手でおこなわれる. JR東日本の在来線としては,1976年に武蔵野線に初めて導入され,その後1984年に東北本線(白河-石越間),1986年に埼京線に導入された.
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さらにコンピュータによって,「輸送総合システム≪IROS≫」の計画ダイヤデータベースと連動して,集中制御できるようにしたものが「自動進路制御装置≪PRC≫」となる. あらかじめ設定した手順にしたがって自動で稼働するが,強風や人身事故などによってダイヤが5分以上遅れると,PRCは使えなくなることが多い.
JR京葉線蘇我駅出発時機表示器.
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このような問題などを改善する新しい運行管理システムが「東京圏輸送管理システム≪ATOS≫(アトス)」となる. 概ね,半径100kmの東京圏の線区に,1993年から段階的に導入を進めている. JR東日本のATOS(アトス)のシステムの開発は,ジェイアール東日本情報システムと日立製作所がおこなった.
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同様のシステムは,JR西日本の「アーバンネットワーク運行管理システム≪SUNTRAS≫(サントラス)」,JR東海の「名古屋圏運行管理システム≪NOA≫(ノア)」が稼働している. JR東日本の新しい輸送管理システム≪ATOS≫は,1996年に初めて中央線に導入され,数かずのトラブルを乗り越え,東京圏の各線区に拡大されている.
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人身事故などによって運行障害が起こった場合でも,コンピューターが自動的に列車の運行を調整するしくみを持っている. 駅の電光掲示板(LED式発車標)に自動的に何分遅れなどを表示し,駅ホームにも自動案内放送がされる.
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2016年9月25日(日)朝 4:00 から,京葉線にも ATOS(アトス)が導入されていることに気が付いていただろうか. 一般客が,ATOS(アトス)が導入されたかどうかがわかりやすいのは,駅ホームの電光掲示板(LED式発車標)の表示や駅ホームなどの自動案内放送となる....
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2016年4月27日,JR東日本は「2016年度設備投資計画」を発表した. この設備投資計画の中で「ATOSの拡大」として予告されていたが,具体的な線区については触れられていなかった.
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すでに,2016年6月ごろから,JR京葉線区の各駅に新しい「出場表示機」が設置され,さらにスピーカー電光掲示板なども順次新型に更新されていたことから,鉄道ファンの間では「JR京葉線への ATOS 導入は近いのではないか」と噂となっていた. そして,2016年7月24日から蘇我駅にて ATOS が先行稼働された.
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駅ホームの自動案内放送は,聞き間違い防ぐため,上り線と下り線とで男性と女性に分けてアナウンスされている. 東京圏の場合,上り線(東京駅方向)が男性となることが多い. ATOS(アトス)が導入さる前は,PRCに連動した「東京圏輸送管理システム≪AHOS≫(アホス)」によって自動案内放送されていていたが,使用できる言葉は少なく,ダイヤが乱れるとすぐに現場駅員の肉声となっていた.
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自動案内放送の声は機械合成によるものではなく,実在する声優がおこなっている. 声優により,駅名だけ,時刻だけといった具合に,文節や単語単位で細かく分割録音されてパーツ化(部品化)される. それぞれの音声パーツをつなぎ合わせてアナウンス文としている.
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この方法によって,毎年おこなわれるダイヤ改正でも,新たな録音をしなくても,プログラムの変更だけで対応可能となっている.
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AHOS(アホス)の時代の男性声優は津田英治(つだえいじ),相方の女性声優は向山佳比子(さきやまけいこ)が担当していた. これが最新のATOS(アトス)からは,男性声優が田中一永(たなかかずひさ)に変更され,女性声優は今まで通り向山佳比子がおこなっている.
声優の津田英治(左). 声優の向山佳比子(右).
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新しい駅が増えた場合には追加録音が必要となるが,男性声優の津田英治は,加齢のために声質が変わってしまった. 津田英治は,JR東日本以外にも,東京ディズニーリゾート内の,地震発生時の緊急放送もおこなっている.
声優の田中一永(左). 声優の向山佳比子(右).
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このようなことから,まだ若い田中一永へと変更された. 田中一永は,海外ドラマの声優としても活躍している. 当初,名前が公開されていなかったため,ミスターXといわれていた.
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2014年11月から宇都宮の北の方の駅から男性声優が変わったことから,鉄道ファンの間では宇都宮型と言う場合もある. 合成音声の技術は,日々進歩している. 今後も声優が変わるリスクもあるため,ヤマハが開発した歌うシンセサイザといわれる歌声合成システムヴォーカロイド(Vocaloid)のように,母音-子音単位の断片を接続する「素片連結方式」の機械音声合成エンジンに変わっていくのかもしれない.
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ATOS導入区間の駅では,次発案内,接近案内,利用時の注意などが放送される. よく聞かれるものとしては,「当駅では,終日禁煙となっております,皆様のご協力をお願いいたします」だろう. 約10分間隔で自動で流れ,各ホームで重ならないようズレて流れるようにしているようだ. 禁煙タイムが設定されている駅の場合は,時間帯によってアサウンス文が変わる. スピーカー出る音量も大きくなっている.
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駅の電光掲示板(LED式発車標)も進化している. ATOS導入により接近情報が出せるようになった. 二段目に「電車がまいります」という点滅表示となる. また,次列車がどこを走っているのかを表示できる.
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